ユーグレナという企業があります。
微生物であるミドリムシの学名を冠したこの企業、バイオ系ベンチャーの雄として東証一部上場を果たすなど、少し前にはなりますが、大きな注目を集めましたので、ご存知の方も多いかと思います。
バイオ系…というと、何やら私のような素人には大変難しそうですが、ミドリムシという次世代のバイオ燃料を使って、既に同社といすゞ自動車が共同でバスを走らせていたりするといいますから、それを聞いただけでも大きな期待が持てそうな、未来志向のベンチャー企業だということはよく分かります。
営業活動の苦労は想像以上
ところで、一口に「素人には大変難しそうだ」などと申してしまいましたが、実際そのように最初から壁を作られ、なかなか理解してもらえないということは、同社の営業活動においても大いにあったのではないかと推測します。
それに加え、次世代のバイオ燃料などという、要するにイノベーションそのものを事業としている訳ですから、とかく新しいもの、聞き慣れないもの、斬新なもの、前例のないものに対して、半ば本能であるかのように一定の抵抗を抱いてしまう日本においては、その苦労たるや並大抵のものではなかったであろうことが容易に想像出来ます。
実際、ユーグレナの共同創業者であり、代表取締役でもある出雲充さんの話によれば、営業を始めてからの2年間で、500社(!)に断られるという経験をしているそうです。
断られる際に言われることとして多かったのが、「他社で採用が決まったら、また来てください」といったもの。
やはりというか、日本人らしいというか…といった印象は拭えませんが、ともあれ、500社に断られたその後、どうなったのか。
なんとようやく501社目の営業活動で、日本を代表する大手商社である伊藤忠商事が拾ってくれたとのこと。
そして、伊藤忠商事と契約したことで、今までは話さえ聞いてくれなかったような大企業までもが話を聞いてくれるようになり、以後はトントン拍子で売れ始めたんだそうです。
重要な4つのポイント
いかがでしょうか。
この話から学べることはたくさんあり、実は既に多くの経営者や起業家をインスパイアーしています。
ここでは、この話において、私が起業家にとって重要であると考える4つのポイントを、紹介したいと思います。
501社目の営業に向かうという強靭な意志
500社営業に回って契約がゼロだったにも拘わらず、それでも諦めない気持ち、折れない心には、誰もが驚かれるのではないでしょうか。
500回断られた時に取った次の手段が、「諦める」とか「挫折する」とかいったことではなく、「501回目にチャレンジする」ことだったという訳です。
その501回目で、これまでの流れを根底から覆すようなチャンスを掴んでしまう訳ですから、本当にビジネスというのは分からないものです。
そこにあるのは、とにかく結果を出すまで諦めないという強靭な意志です。
意志などと言葉にすると一言で済んでしまいますが、これ、本当に尋常ではありません。
100回や200回でも驚愕の数字であるのに、500回NGでも諦めなかった訳ですから…。
前例がないことをチャンスと捉える思考
ところでなぜ伊藤忠商事は、500社が断ったものにも拘わらず、それを受け入れたのでしょうか?
普通に考えれば、500社が断ったものなんて、ある意味「とんでもない」ものです。
それを受け入れたのは、「とんでもない」ということ、すなわち「前例がない」ということを、チャンスと捉えたからではないでしょうか。
もちろん、500社が断ったという事実からも分かるように、前例がないということは、大きなリスクでもあります。
ただ、大きなリスクは裏を返せば、大きなチャンスでもあるのです。
これはまさに、起業家が持つべき思考そのものです。
そして、起業家が持つべきその思考を、伊藤忠商事という大企業が備えていたことには、若干の驚きを隠せません。
大企業というブランド力には到底敵わないこともあるという現実
伊藤忠商事という世界的な大企業が買ってくれてからというもの、トントン拍子で売れ始めたという事実は、ある意味で小さな起業家がどうあがいても崩せない高い壁が厳然として存在するも、大企業はいとも簡単にそれを崩したり飛び越えたりすることが可能である(こともある)という現実を教えてくれます。
どんなに夢を語ろうと、理想論を振りかざそうと、それは揺るぎのない現実なのです。
実際、出雲さんも、(同じことを言っても)「伊藤忠商事が言うと売れる」ということを素直に認めています。
だから小さな起業家は最初から諦めるべきだ、という話では決してありません。
(言葉は悪いですが)それをうまく利用したり、大企業には出来ないサービスで勝負したりと、うまく割り切って立ち回ることで、何かしら新しい展開に持ち込むのが、起業家たるものではないでしょうか。
出雲さんは、こうも言っているのです。
「大企業の皆様にはぜひ、ユーグレナにとっての伊藤忠商事になって欲しい」
最終的には商品力に帰結するということ
もちろん、伊藤忠商事との契約以後、トントン拍子で売れ始めたというのは、伊藤忠商事だけの力ではありません。
加えて、伊藤忠商事が契約したのだって、単に前例がなくて面白いからとか、話題になりそうだからといった理由だけではないでしょう。
出雲さん曰く、「最初の1社の「Yes」さえあれば売れるだけの商品力があった」ということなのです。
要するに、結局は商品として大いに売れるだけのポテンシャルを秘めていたからなのです。
伊藤忠商事が契約してくれたというきっかけはもちろん、その後も売れ続けたのは、最終的には間違いなく高い商品力の賜物であるということです。
あなたにはそれが出来るか
ともあれ、今回の話で最も大きなポイントはやはり、500社営業に回って断られ続けたにも拘わらず、全く諦めなかったというところでしょう。
どんなに大きな夢を抱こうと、どんなに崇高な目標を立てようと、結果が出ない中で実際に500社営業に回ることの出来る起業家が、いったいどれほど存在するでしょうか?
そして、あなたには、それが出来るでしょうか?
これに関する出雲さんの言葉を最後に紹介して、今回は締めたいと思います。
(出来ると言いつつ、実際に)
「やる人はいない。そういうマインドセットを持っている人がいない」