全体を俯瞰することの大切さ

起業家に限らずですが、何か問題が発生したり、調子が悪かったりする時、とかく人間はその部分だけに意識を集中しがちです。

そもそもそれは当たり前というか、無理のないことではあるのですが、実はこれ、ビジネス上の話だけとは限りません。

例えば、体のどこかに痛みがある時、人はその部分を冷やしたり、温めたり、湿布を貼ったり、揉みほぐしたりと、そこだけに施術を行うことが多いはずです。

これで痛みが緩和することももちろんあるのですが、根本的な解消には至らないケースも多く存在します。

それはどういうことかというと、概してそういった場合には、本当の原因が別のところにあったりするからです。

滴る水を止めるには、絞るのをやめなくてはいけない

昔、私が腰痛で悩まされていた際、御多分に洩れず腰ばかりを気にしている私を見て、知り合いの整形外科医に諭されたことがあります。

「水を含んだタオルを両端から絞ると、中央から水が滴り落ちるけど、その水を止めようと思った時に、タオルの中央ばかりを気にして、そこを手で押さえたり握ったりするのが一番いいと思うかい?」

そんな内容だったと記憶しています。

要するに、原因は症状が出ている部分そのものにあるのではなくて、別のところにある(こともある)ということを彼は言いたかったのです。

タオルから滴る水を止めるためには、症状(滴る水)が出ている中央部分ではなく、原因となっている両端(を絞っていること)に、目を向けなければならないという訳です。

当時、私は妙に腑に落ちて、いたく感動したものです。

その知り合いを改めて見直した気分になったのですが、後日聞いた話では、彼オリジナルのたとえなどではなくて、医療界では割とよく使い回される話らしいです(笑)。

さらには、特に腰痛において、原因は腰そのものではなく別の箇所にあるというのはよくある話で、意外と広く知られているようですね。

器の小さいトップが多すぎる

さて、これと同じことが、ビジネスの世界でも当然起こり得るものです。

例えば、とある商品がなかなか売れない、すなわち販売実績が思うように伸びない場合、多くの場合、「商品が悪い」「設定価格が高すぎる」「営業員の努力が足りない」などなど、とかくピンポイントで原因を考えがちです。

「商品が売れない」という事実だけに意識を集中しすぎて、商品そのもの、及びその販売周りにしか、目を向けないことが多いのです。

まさに、「木を見て森を見ず」というやつです。

もちろん、それぞれの担当者が、自らが携わる個々のプロセスを改善するために努力することは必要です。

商品開発者であれば商品をより魅力的にするために考えなくてはいけないし、営業員であればもっと売るための努力をしなければならないでしょう。

ですが、全体を司るはずの経営トップ(=起業家や社長)までもが、粗捜し的に狭い視野でピンポイントに原因を求めてしまうと、雰囲気はより悪化し、組織のモチベーションは低下し、負の流れはますます助長され、ひいては全体の崩壊に繋がります。

これをやってしまうトップの何と多いことか。

辛辣な言い方かもしれませんが、一言で言えば、皆非常にトップとしての「器が小さい」のです。

トップ以外では為し得ないことがそこにはある

前述の例で言えば、販売実績が伸びないのは、組織のブランド力が弱いからかもしれないし、事業プロセス全体がスムーズに流れていないからかもしれないし、そもそもその商品を販売する時機が今ではないのかもしれません。

そこに気付いて、何かしら決断をし、是正のための手を打つことは、トップにしか出来ないのです。

逆に言えば、「商品が売れない」という状況に対する策として、商品を改善したり、一層販売の努力に注力したり…といったことは、誰にだって思い当たるし、誰にだって出来ることなのです。

すなわち、トップたるもの、そういった詳細をチクチクと追求することだけが、主業務になってはいけません。

全体を俯瞰し、全ての調和を図ることに、十分過ぎるくらいの重きを置くべきです。

それは、事業の成否に関わる大変重要なことであり、されどトップ以外では為し得ないことだからです。

名実共にトップとなる起業家においては、これはぜひとも強く認識しておくべきでしょう。

そして実は、この「全体を俯瞰する」目を養うということが、起業家に限らず誰にとっても、この世の中をスムーズに生き抜くための意外にも大きなカギとなるということを、私は確信しているのです。

とはいえ、一言で「全体を俯瞰する」目を養うといっても、実際に課題や問題に対峙した際には、どうしてもディテールが気になって、そう一筋縄では行かないことも多いかと思います。

「全体を俯瞰する」ということを常に心掛けながら、広い視野で課題や問題を考える癖をつけるべく、徐々に意識を変えていくしかありません。

どんなに立派な起業家だって、一朝一夕でその境地に至った訳ではないのです。

時間をかけて、じっくりと取り組むことが必要となるでしょう。

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