成功という大きな目的を達成するにあたっては、その過程においていくつもの小さな目標を掲げ、その一つ一つを確実に為し遂げていく、というのが通例です。
目標が適切で、余程見当違いなものでない限り、間違いなくそれによって徐々にでも目的に近づいていくはずなのです。
いきなりゴールに向かってやみくもに突き進むのではなく、そこに至る道中にあるいくつものマイルストーンを、一つずつ通過しながら確認していくようなイメージですね。
ただ、そうやって目的に向かって一生懸命努力しているうちに、個々の目標に囚われすぎたり、そもそもの目的を見失ったりして、やがて手段と目的が混同し、あるいはそれらが逆転してしまうといった事態に陥ることがあります。
要するに、手段そのものが目的となってしまった状況です。
そしてこれが、いわゆる「手段の目的化」というやつなのです。
「手段の目的化」の典型例
私の知り合いに、三十代後半になってから魚釣り(フィッシング)の面白さに目覚めた人がいます。
初めは、川へ、沼へ、湖へ、海へ、思うがままに釣りに出掛けてその楽しさを満喫しているようでした。
何年か経ったある日、その人の自宅にお邪魔する機会があり、自慢の釣り道具を見せてもらったところ、その数と種類の多さにたいそう驚かされたのです。
釣竿だけで、3桁に届くほどの数があります。
リール(釣竿にセットして釣り糸を巻き取る道具)やルアー(小魚や虫などを模して、魚の興味を惹くための疑似餌)なども、同じく数えきれないほど(特にルアーは、3桁はおろか、4桁に達するほどの数があったのではないでしょうか)。
道具だけで、8畳ほどある一部屋を、所狭しと占領しておりました。
聞けば、いつからか釣りそのものよりも、道具をコレクションする楽しさに目覚め、そちらに興味が移ってしまったとのこと。
休みの日も、出掛けるのは川や海ではなく、釣り道具屋さん。
実際に釣りに出掛けるのは、年に1回あるかないか…といった状況だそうです。
そんなこんなで、全く使用したことがない道具が大半を占めているとか。
非常に単純で分かりやすい例ですが、これなどは、典型的な「手段の目的化」と言えるでしょう。
こういった趣味の話であれば、「本人さえ良ければそれで良し」といった笑い事で済みますが、ことビジネス上の話ともなると、そうはいかないことが多いはずなのです。
ビジネスの現場でも頻発
例えば、見た目はインパクトもあってすごくカッコいいデザインなんだけど、どこをどうやったら目的のページに辿り着けるのかがさっぱり分からず、誰がどう考えても使いづらいWebサイトに遭遇したことはありませんでしょうか。
これなどは、Webデザイナーやプロデューサーの自己満足の域を出ず、全く本来の目的を果たせていないと言えるでしょう。
また、「生産性の向上」を目的に掲げ、効果的なツールやシステムを導入するのはいいのですが、いつの間にかその導入自体が目的となってしまい、そこにかかる価格や工数(手間)のみでツールやシステムを選定してしまうといったことは、よくあることです。
こういった、「実利よりも見た目を優先してしまう」とか「目先の利益やメリットに囚われてしまう」とかいったことは、あらゆるビジネスの現場で毎日のように見受けられる光景です。
どれもこれも、本来の目的を見失ってしまい、その過程自体(手段)が目的となってしまっているためです。
目的の意識を習慣化する
これらは、起業して、その成功に向かって邁進している際でも同じこと。
例えば、社長であるあなたが社員を雇うようになって、その社員に対して指示を出す際、本来の目的をきちんと伝えて常に意識させないと、社長から言われたことをこなすこと自体が目的となってしまいがちです。
こうやって、「指示待ち人間」や「言われたことしか出来ない人間」が出来上がっていく訳です。
ビジネスにおいて、「指示待ち人間」や「言われたことしか出来ない人間」に留まってしまってはダメであるということがよく分かっている人であっても、自分では部下や後輩を、せっせとそのような人間に育ててしまっているケースが多かったりするのです。
とはいえ、必要以上に難しく考える必要はありません。
何をするにしても、何がしか目的は必ずあるはずです。
もしなければ、それは最初から手段が目的になってしまっているので、行動する前に考え直したほうがいいかもしれません(笑)。
必要なのは、行動するその過程において、目的を常に意識するようにするだけです。
何か行動する度に、「これは何のためにやるのか」ということを考える習慣をつけるだけです。
社員(部下)に対しては、それらを日々啓蒙していけばいいのです。
それだけで、少なくとも、本来の目的を達成すること自体を危うくするような「手段の目的化」は防げるはずなのです。
「目的を意識することの習慣化」、これも、起業家に必要な一つの要素かもしれません。