私の知人に、何でも自分でこなすことが出来て、頭も非常にきれるという、素晴らしい方がいます。
一言で言えば天才肌で、どこをとっても極めて器用でクレバーな人間です。
その方、とある企業に就職し、大方の予想通りめきめきと頭角を現し、順調な出世街道を歩んでいたのですが、若い頃から独立心が強かったこともあり、ある程度のビジネス経験を積んだ時点で、鋭意起業に踏み切ったのです。
そして先日、その方から、一旦事業を畳むという、失意の連絡がありました。
彼は何故、起業に失敗してしまったのでしょうか…。
人に頼ることを知らないと…
本人から色々と話を聞いているうちに、その理由が予想通りであることが確認出来ました。
端的に言えば、「人に頼るということを知らなかった」からなのです。
天才肌で、若い頃から大抵のことは自分一人でそつなくこなしてきてしまったため、いざ起業してからも、人に任せるとか、やってもらうとか、あるいは知らないことは何でも人に聞くとか、そういうことをほとんどしなかったが故の、失敗という結果だったのです。
餅は餅屋で、専門家に任せることの効率性を鑑み、すべてを自分でやろうとすることが必ずしも正解ではないということは、当サイトで以前にも言及しています。
※参考 →「すべてを自分でやろうとしない」
まさにそれを地で行くような、律儀に具現化してくれたような顛末だったのです。
天才肌ほど脆い
正直に言えば、私も「彼なら起業しても大丈夫だろう」と考えていた節はあったため、その話を聞いたときは大変ショックでした。
ただ実は、今となっては結果論にしかなり得ませんが、彼が起業すると聞いた時に、「挫折というものをほとんど知らない彼が、起業後必ず経験するであろう大きな壁にぶちあたった時には、厳しい試練になるんだろうな」といった思いも頭の隅をよぎりました。
天才肌で、これまでの人生が順風満帆だった人ほど、実はいざ訪れてしまった困難や試練に対して脆いということがありますよね。
彼は、その典型だったのです。
その時ですら、人に頼らず、己の力のみで何とかしようとしてしまっていたのです。
節目節目で謙虚に頼る
この一件は、私に、起業家が謙虚でなければならないことの重要性を、改めて知らしめてくれました。
起業や経営に関して、最初からすべてを理解している人など存在しません。
どんなに素晴らしい社長さんだって、自社の事業の隅々まですべてを経験し、知っているとは限らないのです。
では、どうしているのか。
出来る人に頼っているのです。
信頼して、任せているのです。
それをうまくやらなければ、効率の良い事業運営なんて決して出来ません。
特に、件の彼のように、天才肌の人間、経験上、自分一人で何でもこなせると思っているような人間は、注意が必要です。
謙虚に人に聞いたり頼ったりすることを知らないと、起業、すなわち事業運営という厳しい戦場においては、彼のように大きな痛手を負うことになり、最悪は命を落とす( = 失敗、事業撤退)といったことにもなりかねません。
頼るべき人を見極め、いなければそういう人材を育成し、そして節目節目で謙虚に頼るということも、起業家として大いに必要なファクターであると、痛切に感じた一件でした。
※参考 →「現場へのリスペクトを忘れるな」 →「「謙虚である」ことの意味を考える」 →「「謙虚である」ことの意味を考える(その2)」