ビジネスの現場において、ノマドなどという言葉が一般的なものとなってから随分と久しいですが、社会における価値観の大きな変化により、従来では到底考えられなかった働き方(ワークスタイル)が定着し、今なおその人口を増やしつつあります。
ノマド(nomad)とは、直訳すれば「遊牧民」や「放浪者」といった意味ですが、昨今ではIT機器とそれによるリモート通信を駆使して、固定されたオフィスではなくあらゆる場所を転々としながら仕事をするワークスタイルを表す言葉として使用されてきました。
仕事をする場所を次々と移動する様を遊牧民になぞらえたという訳ですが、このような働き方を「ノマドワーク」あるいは「ノマドワーキング」、それを実践する人を「ノマドワーカー」などと分けて呼ぶ場合もあります。
いずれにせよ、一ヶ所に集うことなくチャット(音声や映像によってネットワーク上でリアルタイムに行う対話)などで手早く会議や打ち合わせを済ませたり、現地に赴くことなくリモートで種々の作業を行ったりすることで、現代のビジネス環境におけるスピード感や、第4次産業革命とも言われている未曽有の変化に対応した、新しい働き方と言えるでしょう。
年功序列・終身雇用が当たり前だった大企業偏重・サラリーマン全盛の時代に、会社に行かずとも良く、基本的には時間も場所も問われることのない、そんな働き方が許される社会が訪れることを、いったい誰が想像出来たでしょうか。
日本でもこういった働き方が台頭してきたその背景には、国際化による多様な価値観の流入と、テクノロジーの劇的な進化が大きな要因として存在することは、一つ間違いがありません。
実はこの「多様な価値観」というところが大きなポイントであり、今後ますます、ビジネスのスピードは加速し、スコープは拡大し、地域や人種、あるいは業種や分野などといった境界が、極めて曖昧なものとなるか、もしくは消滅してしまうことが予測される中、企業であれ、個人事業主やフリーランスであれ、ビジネスに携わる人間としてとにかく必要なのは、既成概念に決して囚われず、斬新で新しい感覚を大いに認め、そこに価値を見出すことなのです。
要するに、これまでの常識ややり方では全く通用しない、新たなビジネス環境へと推移しつつある現在、それに戸惑っている暇や余裕などは全くなく、今後さらにその潮流は加速していくということであり、その流れに乗れない人間は、ただただ淘汰されるという悲しい結末が待っているのみ…という状況なのです。
進む「個人主義への転換」
そういった激動の世の中において、かつては集団主義と言われていた日本においても、大きく個人主義への転換が進んでいるといった見方があります。
思えば、アメリカを始めとする欧米諸国では、昔から個人主義の傾向が強く、一人一人が自らの意見を持ち、判断し、選択することを求められてきました。
そうする一方で、自立した個人を皆がお互いにリスペクト(尊重)し合い、絶妙なバランスを保ちながら社会が成り立ってきたのです。
片や、集団としての結束や輪を尊重する日本では、自分自身の意見を通すことより、ともすれば主義主張を曲げてでも、大勢を占める意見に合わせることが求められてきました。
そんな中、少なからず優秀な「個」が潰されてきてしまった側面があるという事実は、決して否定出来ないと言えるでしょう。
しかしながら、今やそんな流れも大きく変わりつつあります。
変革のスピード感と、それによる新しい価値観の登場によって、ダイバーシティなどといった言葉に象徴されるように、多種・多様な人材やそれに伴う様々なスキル・考え方などが全地球的に求められる時代となり、これまでの集団主義では到底世界に追随することが出来ないという現実に、日本人もようやく気が付いたのです。
※参考
→「起業家とダイバーシティ」
集団の一要素から、自立した個人へ
今後は日本でも、個人を尊重する流れがより加速することは間違いないでしょう。
言い換えればそれは、「個」の時代の到来であり、いよいよ「強い個人」だけが生き残れるサバイバルに突入するということです。
突飛な個性を発揮したり、他人に迷惑をかけたりすることを出来る限り避け、ともかく集団としての輪を尊重するような世界で、「集団の一要素としての個人」を演じていれば良かったこれまでの甘い時代とは正反対の、自立した個人が熾烈な戦いを強いられる時代が来ると言っても、決して過言ではありません。
そんな時代において、企業や組織が果たすべき使命とは、自立した「強い個人」を一人でも多く創り出すこと、さらにはそういう個人をいかに活かすかを考え、実践すること…これに尽きるのです。
そしてそれはそのまま起業家としての使命でもあり、自らが「強い個人」になると同時に、そういう個人を活かすようなビジネス環境を構築することが、ひいては成功に通じる道であるということなのです。