プロ意識を忘れない

「1円でもお金を稼いでいる以上、その道のプロフェッショナルである」

これは、私が学生を卒業し、社会人となってから、常に頭の中で意識してきた言葉です。

誰かに教わったのか、色々な勉強をしていく中で必然的に芽生えてきたのか、今となっては忘却の彼方となっていますが、同じような意味合いの言葉はよく言われていることですし、今でも新人教育や社会人研修において、ビジネスマンとして必要なマインドセットを叩き込む際、ここ(すなわち、プロ意識の醸成)から入る企業や組織は多いようです。

若い男性にプロ意識を見た例

こんな例があります。

学生を卒業し、社会人になったばかりの若い男性の方が、苦笑交じりでぼやいてきたことがありました。

その方、自らの将来に対する不安や戸惑いもあって、かなり紆余曲折した挙句に、当初は考えてもいなかったIT業界(全くの未経験)にようやく就職が決まったのですが、その途端、友人・知人、はたまた普段はあまり連絡などしてこないような親戚から、

「パソコンの調子が悪いので、一度見て欲しい」
「新しくパソコンを買いたいので、相談に乗って欲しい」
「インターネットに繋ぎたいんだけど、パソコンの設定をやってもらえないか」

などといった相談が頻繁に来るようになったそうです。

これはどういうことかと言えば、彼の周りの人たちにとっては、「IT業界に就職した人 = パソコンに詳しい人」という図式が出来上がっているということなのでしょう。

要するに、IT業界に足を踏み入れただけで、周りからは「パソコンに関するプロフェッショナル」であると見られてしまっているという訳です(厳密に言えば、「IT = パソコン」ということ自体が必ずしも正しくはないのですが…)。

素晴らしいのは、その男性、「自分のことを認めて、声を掛けてくれているんだから」と考え、自分には未経験の世界であって、実は全くの未熟者であるなどといった言い訳は一切せず、すべての相談や依頼を引き受け、裏でこっそり(しかしがむしゃらに)勉強しながら、何とか乗り切ってきたそうです。

なんて事のない話かもしれませんが、これこそがまさに「プロ意識」ではないでしょうか。

経験を積んで成長していく中で、少しずつプロ意識というものが醸成されていくという方が多い中、彼は、最初からそれを持ち得ていたという点で、非常に素晴らしいと思うのです。

実際、事情を知らない周りの人たちは、当事者の都合なんてお構いなし、成長なんてものを悠長に待ってはくれません。

それに対して普通なら、「ごめんなさい、分かりません」「すみません、出来ません」で、済ませてしまうことでしょう。

彼のように、最初からそういった周りの思いや勝手な期待に応えられる人は、なかなかいないというのが現実のはずです。

経験を積むと忘れがちになる

実際、顧客や取引先といった人たちにとって、相手が新人だろうが未熟だろうが、基本的には一切関係ありません。

ビジネスという厳しい世界において、金銭や利害が絡んだ大人と大人の付き合いをする以上、その存在をプロフェッショナルとして見てくるはずです。

そうやって見られたり、扱われたりする経験を積みながら、少しずつプロ意識というものが形作られ、確固たるものとなっていくのです。

ところが、ビジネス経験を何年も積んでベテランになったり、その過程で起業して起業家となったりすると、その大事なプロ意識を、忘れがちになってしまうことがあるものです。

それは、要領を得て、手を抜くことを覚えたりすることで、気持ちに余裕が生まれすぎるが故に起こるケースもあれば、あるいは逆に、経験と共により厳しい環境に置かれることで、精神的な余裕がなさすぎるが故に起こるといったケースもあるようです。

かくいう私も、これまでの長年のビジネス生活において、確固たるプロフェッショナルとしての意識を忘れてしまっていた時期が全くなかったかというと、残念ながらそれは否定せざるを得ません。

忙しさにかまけ、ともすればディテールを端折り、多くを妥協してしまう自分に気付き、改めて強くプロ意識を呼び起こし、自らを鼓舞することで、何とかその状況を打破したということもあったのです。

起業した時点でプロフェッショナル

当サイトでは、過去にも何度か言及させていただいている、日本サッカー界のレジェンド、キングカズこと三浦知良さん。

※参考
→「イノベーションに必要なのは才能なのか」
→「成功者は「休みなんか必要ない」とは口走らない?」
→「限界とは、単にその先を知らないだけ

上で挙げた過去ページを参照していただいてもお分かりの通り、まさにプロ意識の塊、プロフェッショナルの権化とでも呼ぶべき三浦さんですが、彼が残した言葉で、次のようなものがあります。

「金のためにボールを蹴るのがプロ。夢のためにすべてを捨てるのもプロ。」

これは、1994年、当時日本のJリーグにおいて群を抜いた成績を残し、トップレベルの年俸を得ていた三浦さんが、それを捨ててでもヨーロッパのプロサッカーリーグ(イタリア・セリエA)でプレイしたいという願望を叶えた際の気持ちを、自ら示したものです。

勝手ながら、もしこれを我々ビジネスの世界に置き換えるのであれば、サラリーマンの世界で上(出世)を目指すのもプロならば、現在の地位や報酬を捨てて、夢のために起業するのもプロである、といったところでしょうか。

つまり、言うまでもないことかもしれませんが、すべての起業家は、何がしかの夢を持って起業に踏み切った時点で、その事業内容や経験の有無に関係なく、既に歴とした「プロフェッショナル」なのです。

起業家としての経験を積み、惰性で動いたり、マンネリ化したり、といったことが横行しそうになった際には、今一度この「プロ意識」を呼び覚ましてみることが、改めて成功を手繰り寄せるきっかけになるのかもしれませんね。

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