人間は複数のことを同時には出来ない

起業すると、「あれもやらなくてはいけない」「これもやらなくてはいけない」と、次から次へとやるべきタスクが湧いて出てきます。

わずかでも売上が計上されたり、少数でも顧客がついたりして忙しくなってくればそれは尚のことで、起業家は基本的にあれもこれもと同時にこなさなくてはならないのです。

特に起業後間もない時期は、経営者(事業主)としてのタスクから、最前線における作業者としての現場タスクまで、自分一人ですべて消化しなければならないことも多く、一人二役どころか三役も四役もこなさなくてはならないため、まさに「目が回るような」毎日を送ることも全く珍しくはありません。

これはもう、ある意味で必然と言っても過言ではないことですし、起業家たるもの、それくらいの覚悟は出来ていて当然でしょうから、特段取り上げて多くを語る必要もないでしょう。

ただ、忙しいというその意味は、「ある程度のスパンにおいて同時並行で進めなければならないタスクが複数(多数)存在する」ということなのですが、あまりに忙しいが故に、例えば、電話をしながらメールを書いたり、打ち合わせに参加しながらパソコンで別の作業をしたりと、本当にリアルタイムで同時に複数の仕事をこなすことが常態化してしまっている人がいます。

これ、効率的なようで、実際は非常に非効率であるということも少なくありません。

「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざではありませんが、これで失敗している人も数多く存在するのです。

どうしてもやむを得ない場合は仕方がありませんが、基本的に「人間は複数のことを同時には出来ない」ものであると認識しておいたほうが、大いに賢明であると考えられるのです。

複数を同時に行うと、どれもが中途半端になる

脳科学の分野では、二つ以上のことを同時に行うと、そのどれもが中途半端になるという明確な研究結果も存在するそうです。

昨今では携帯電話やスマートフォンで通話しながらの自動車事故などがよくフィーチャーされますが、それは当然ながら、意識のほとんどが通話に持っていかれてしまい、本来集中しなくてはならない周囲の状況や安全確認への意識が希薄になるからです。

仕事上、複数のタスクをまさにリアルタイムで同時にこなせば、一気に作業が進み、たいそう捗っているようにも思えますが、多くの場合、それは単なる自己満足に過ぎません。

自動車運転中における携帯電話やスマートフォン使用の例と同じように、集中力の分散と作業効率の低下から、どれもが中途半端になり、ミスも発生しやすいのです。

つまり、実際にはクオリティの低い仕事しか出来ず、進捗もそれほど芳しくなかったということが少なくないのです。

忙しいが故に、効率化や時間短縮を求めて行った結果がこれでは、「本末転倒」という単語以外にそれを表す言葉が見つかりません。

他にも様々な弊害が

また、非常に重要なのは、こういった仕事のやり方には、作業効率やクオリティといった問題以外にも、様々なリスクや弊害が伴うということです。

それも、本人の身体に問題が現れてしまうという、内部的なリスクや弊害なのです。

顕著なのは、普段より疲れる上、ストレスがたまりやすくなるということ。

複数のタスクを同時にこなしている際には、頭の中で無意識に、(単一のタスクをこなす時以上に)集中しなければならないという自覚が生まれるせいか、脳が非常に緊張している状態にあるからです。

要するに、必然的に凄まじい集中力を伴うため、脳に休息が与えられる暇がないのです。

そして現在では、そのような状態を続けることは、記憶力への負の影響も全くの皆無ではないということが分かっているそうです。

さらには、創造力が低下してしまうという恐ろしい研究論文も存在するとか。

こうなると、もはや「本末転倒」どころか、複数の仕事を同時にこなすことのメリットよりも、デメリットのほうがことさら大きい、自虐的な行為に近いものすらあるように思います。

同時並行は出来る限り避けるべき

さて、脳をフル回転させて、様々な決断やスピーディーな判断を求められる起業家にとっては特に、複数の仕事をリアルタイムで同時にこなすということが、ともすれば極めてよろしくない結果を生みだしかねない…ということがお分かりいただけたでしょうか。

とはいえ世の中には、忙しくて時間のない起業家やビジネスマンを憂慮し、あえて率先して複数タスクを同時並行でこなすことを勧める向きもなくはありません。

さらには、あくまでケースバイケースであって、その内容や程度によっては全く問題のないケースもあると言ってしまえば、それはそうなのかもしれません。

それでも私は、そのような状況は出来る限り避けることを推奨します。

そして、あなたがもし、やむを得ずそういった状況に陥ってしまったのであれば、それぞれのタスクの質と全体の効率、後々への影響などを十分に考慮して、それを最小限に抑えるべきだと考えているのです。

忙しいあまり、リアルタイムで同時に複数の仕事をこなすことが常態化・習慣化してしまっている方は、本当にそれが効率化に繋がっているか、さらには高ストレス状態などの弊害を生み出してはいないかなど、ぜひ今一度実状を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

そうした上で、いたずらにリアルタイムでマルチタスクを推し進めるようなことはやめ、意識して少しずつでも仕事のやり方を変えていく。

そんな心掛けが、遠回りのように見えて、実は成功への大いなる近道となり得るはずなのです。

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