顧客をリスペクトする

起業家に限ったことではありませんが、ビジネスに携わるすべての人間において、事業を進めていく上では、顧客に対して一定のリスペクトの気持ちを持つべきです。

そこにあるのは、単にお金を払ってくれる(あるいは払ってくれる見込みがある)というだけではなく、顧客の貴重なリソースをいただいているという気持ちです。

自らの商品やサービスのために、わざわざ限りあるリソースを割いて、向き合ってくれているということへの理解と感謝です。

リソースとは、文字通りの意味で言えば「資源」や「資産」ということになりますが、要するに顧客の労力、時間、そしてもちろんお金をも含めた、とにかくすべてのものを指します。

それをいただいていると考えれば、リスペクトする気持ちも自然と生まれてくるというものです。

一方で、自らにとってのマイナス要素が多すぎるなど、どうしてもリスペクトすることが難しいような顧客であれば、起業家として断固たる判断を下すべきでしょう。

リソースをいただいているという気持ち

さて、ビジネスに携わるすべての人間において、顧客をリスペクトするべきであるといった旨、述べました。

これは決して、「お客様は神様です」というようなことを言いたい訳ではありません。

お客様は絶対であって、何があっても「No」と言ってはいけない、という訳でもないのです。

確かに、お金を含めた貴重なリソースを割いてくれる側とそれをいただく側ではあるのですが、同じように、商品やサービスを提供する側とそれを享受する側、という見方も出来るからです。

要するに、いただいたリソースに対して適正な対価をきちんと提供出来ているのであれば、正当なギブアンドテイクであって、ある意味で堂々としていれば良いのです。

過度に卑屈になる必要などありません。

重要なのは、リスペクトの気持ちを持つこと、上述した通り、貴重なリソースをいただいているという気持ちを忘れないこと、それだけです。

逆に言えば、そういった気持ちがないと、適正な対価など、提供出来るはずがありません。

「ギブアンドテイク」という言葉を用いましたが、「ギブしたのだからテイクしなくてはならない」ではなく、「テイクするためにはギブし続けなくてはならない」くらいの気持ちが大事だということです。

友人の体験談

ところで、私がなぜ今回、こんなことを言い始めたのかと申しますと、とある企業に勤める友人の体験を聞き、改めて、自戒を込めて考えさせられたからです。

総務部に所属しているその友人、顧問弁護士に業務上発生したある相談をするため、忙しいスケジュールの合間を縫って、決して会社から近いとは言えない弁護士事務所を訪れたのだそうです。

あらかじめ、電話やメールで要件を伝え、用意する資料などを確認し、準備万端、勇んでその場に臨んだものの、一部、誰がどう考えても弁護士側の不手際である事態によって、後日に持ち越しとなってしまった件があったのだそうです(守秘義務がありますので、詳しい内容は聞き及んでおりませんが)。

その顧問弁護士との契約は、月額固定の時間契約です。

つまり、1ヶ月間、一定の時間までなら、月額として定められた顧問料金内で済むというものです。

逆に言えば、一定の時間を超えてしまうと、決して安くはない追加料金を支払うことになり、企業側としては、頼んだ仕事に対して弁護士がどれくらいの時間をかけるのか、あるいは弁護士の時間をどれくらいロックしてしまうのか、といったことについては、非常にシビアだということです。

そういう訳で、友人が「今回は先方の不手際だし、後日訪問する際の時間はカウントされないよなぁ…」「逆に交通費を支払ってほしいくらいだ…」などと考えながら、スケジュールを確認していると、その弁護士がぼそりと言ったそうです。

「次回はすぐ終わると思いますし、時間はおまけしておきますから」

この言葉に、友人は一瞬耳を疑い、非常に違和感を覚えたそうです。

そして、「おまけじゃないだろ!当たり前だろ!」と叫びたい気持ちを抑えて、悶々としながら帰路についたということでした。

この話、単に「おまけ」という単語に敏感に反応してしまっただけのように聞こえるかもしれませんが、そもそもこちら(友人)の事情への配慮が足りず、そのリソースを再び費やしてもらわざるを得ないという気持ちがないからこそ、「おまけ」という単語になってしまったのではないでしょうか。

しかも、「すぐ終わると思いますし」という言葉が付加されていることによって、「時間が短いからおまけなのか?」「長くかかってしまったらやっぱりカウントするのか?」といった様々な疑念が湧いてきます。

件の友人も、それらを総合的に感じてしまったからこそ、違和感と憤りを覚えた訳です。

私はこれを聞いて、果たして自分はどうだろうか、顧客に対してリスペクトする気持ちを常に持つことが出来ているだろうか、忙しさにかまけて、顧客のリソースのことなど二の次になってしまっているようなことはないだろうか、といった疑問が、頭の中をぐるぐると廻りました。

忙しい時こそ、ふと歩みを止めてこういったことを自問しながら確認しないと、ただただ忙殺され、状況に流されるだけの事業運営になってしまいます。

それでは成功も遠のいてしまうことでしょう。

心して励みたいものですね。

なお、大事なことを最後に付け加えておきますと、起業家としては、顧客のみならず、自らのリソースの一つである「現場」に対しても、大いにリスペクトする気持ちを持ちたいものです。

※参考
→「現場へのリスペクトを忘れるな
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