何かをきっかけに、すべてのものがざわざわと成功に向かって動き出すことがあります。
そのきっかけによって一部に変化が起こると、それがあらゆる事象に波及して、次々と変化が起こり始め、それらすべてが成功に向かう大きな波となることがあるという訳です。
そして、そのきっかけとは、本当に一瞬の、ささいな出来事であったりします。
ある起業家の体験
こんな話があります。
ある起業家(Aさんとします)が、鋭意独立して事業を開始したものの、それがなかなか軌道に乗らず、大変苦労しておりました。
何をやってもうまく行かず、まさに、思い悩んで食事も喉を通らないといった状態だったのです。
そんなある日、あまりに根詰めて行き詰っている状況を見かねた奥様からの勧めもあって、Aさんは、気分転換を兼ねた数日間の小旅行に出かけることにしたのです。
飛行機の座席に座り、離陸を待っていると、隣の席にはやはり同じようなビジネスマンらしき中年男性が座ってきました。
それなりの雰囲気を持ち、何だか存在感のある男性でした。
格好こそスーツではなく、ポロシャツにジーンズといった砕けた感じでしたが、起業家ならではの感性と言いますか、何となく分かるのだそうです。
要するに「同じニオイがする」ということを(笑)。
その時は、話をしてみたいけど、前触れもなくいきなり話しかけるのもはばかられるし、「もしきっかけがあれば(仕事は)何をやっているのかだけでも聞いてみようかな…」くらいの気持ちだったそうです。
離陸してしばらくが経過し、ドリンクサービスとして、CA(キャビンアテンダント)が席を回っていました。
隣の男性は、アップルジュースをオーダーしました。
CAが紙コップにアップルジュースを注ぎ、Aさんの前を遮るようにしてその男性に手渡そうとします。
ところがその時、男性が紙コップをしっかりと掴み損ねて傾いたことで、中身がAさんの膝に少しこぼれてしまったのだそうです。
平謝りのその男性。
そこでAさん、大丈夫、大したことないと、ハンカチで膝を軽く拭きながら、今しかないとばかりに、思い切って切り出したのです。
「お仕事は何をされているんですか」
きっかけがあったとはいえ、それでもちょっと唐突過ぎたかな、などと考えつつ、Aさんが男性の反応を窺っていたところ、ジュースをこぼしてしまったという引け目もあったせいか、極めて丁寧に、自らのことを語り始めてくれたそうです。
案の定、Aさんと同じく起業家で、しかも起業時期や会社規模も、ほとんど変わらなかったそうです。
そして今、とあるアイデアがあってインターネット上にWebサイトを作りたいのだが、それを請け負ってくれる業者を探している最中であるとのこと。
まさにWebサイトの構築やWebシステムの開発を本業としていたAさん、これは何かの縁と、その場で早速、後日商談する約束を取り付けます。
結論を言いますと、その商談で見事取引することが決定し、その後、その男性の会社も、Aさんの会社も、大きく飛躍することが出来たそうです。
そしてその男性の会社は、今でもAさんの会社のメインクライアントとして、かなりの規模の取引が続いているそうです。
あの時、その男性がアップルジュースをこぼさなかったら…。
Aさんは結局話しかけることなどせず、その男性とのお付き合いはなかったかもしれません。
Aさんは起業家として未だに行き詰り、思い悩んでいたかもしれません。
まさに「アップルジュースをこぼされる」というたったそれだけのことが、事態が好転するきっかけとなり、そしてその一瞬が、まさにすべてが成功に向かって動き出す運命の瞬間になったという訳です。
ターニングポイントには人が存在する
世の中に起こり得る諸々の問題について、その所在や根源、あるいは解決策を、何でもかんでも「人と人との繋がり」とか、「コミュニケーション」といったところに帰結してしまう現在の風潮には私自身思うところがあるものの、一方で、やはり結局はそこに尽きる面があるという事実も、決して否定は出来ません。
それは、我々の人間社会が、様々な人的ネットワークが複雑に絡み合うことで、成り立っているからなのです。
逆に言えば、それでしか成り立たないからです。
それ故、ビジネスに限らずですが、その後の先行きを占う上で、誰と、いつ、どんな形で関係を構築するかというのは、最も重要なファクターとなります。
「人間は一人では生きていくことが出来ない」といったことはよく言われますが、逆に言えば、誰と関わりを持つか、どのように付き合うかということが、「生きる」というその根本に対しても、大きく影響を持つということなのです。
そしてそういった、人々と共有する「何気ない出会い」や「ちょっとした瞬間」、あるいは「ふとしたきっかけ」が、その後の人生のターニングポイントとなることも、決して珍しくはありません。
あなたのこれまでの人生を思い返してみても、そういったターニングポイントには間違いなく、誰かしら他の人の存在が絡んでいるはずです。
要は、「あの人とそこで出会わなければ…」とか「あの人の一言がきっかけで…」などというやつです。
そういった何気ない出会い、ちょっとした瞬間、ふとしたきっかけが、結局はその後の人生を大きく好転させるもの、ひいては、すべてが成功に向かって動き出す大事なトリガーとなるのです。
ただこれ、元を辿り始めるとキリがありません。
例えば、上述した起業家の例にしても、「アップルジュースをこぼされる」という事態が直接のきっかけにはなっているものの、そもそもその旅行に赴いたのは、奥様の勧めがあってのことです。
つまり、奥様の勧めがなければ、そもそも件の男性との出会いもなかったはずです。
では、奥様の勧めがあったのは、そもそも奥様と出会って結婚したからであって、ではその出会いとは…といった感じで突き詰めていくと、いくらでも掘り下げることが出来るのです(笑)。
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざではありませんが、そう考えていくと、すべての事象が繋がっていることが実感出来るかと思います。
同様の感覚については、以下のページでも言及しておりますので、ぜひご参照ください。
※参考 →「点が線になる瞬間を体感せよ」
成功に向かう波を保ち続ける
さて、何気ない出会い、ちょっとした瞬間、ふとしたきっかけといったものが、結局は人生を大きく好転させるような、ひいては、すべてが成功に向かって動き出すような、そのトリガーとなり得るということを、長々と説明してまいりました。
ただそれは、逆の場合もしかりで、要するに、何かちょっとした瞬間をきっかけに、すべてが負の方向へ向かってしまうこともあるということです。
せっかく成功に向かって動き出していたすべてが、何かをきっかけに暗転し、連鎖的に終息に向かってしまうこともあるのです。
それはもちろん、不可抗力の場合もあります。
しかしながら、結局は概ね、自分次第であることが多いのです。
要するに、すべてが成功に向かっているその大きな波を、未来永劫ずっと保てるかどうかは、様々な決断や取捨選択を伴うことで、ある程度自分自身でコントロール可能なはずなのです。
言い換えれば、成功に向かう大きな波をコントロールし、それを保ち続けるのが、まさに起業家の最も大事な仕事と言っても、決して過言ではないかもしれません。