サラリーマンを辞め、起業家として独り立ちすれば、言うまでもなくあらゆる要素が大きく変わることになります。
周りの環境や日々の生活習慣を始め、他人からの見られ方や反応、そしてもちろん、仕事内容や収入、お金の使い方など…。
そのような状況において、何よりもことさら「自分自身が大きく変わった」と強調する起業家は少なくありません。
「どう変わったのか」という問いに対しては様々な回答がありますが、概ね共通しているのが、「人間として強くなった」ということです。
中でも私が印象に残っているのは、「不確実であることが当たり前となり、何に対しても疑心暗鬼になった」という一人の起業家の言葉でした。
あらゆることが「不確実」になる
起業家となって自らビジネスを行っていく上では、順調な時期もあれば、うまくいかない時期もあるでしょう。
良い時もあれば、悪い時もある…これは、何事においても当たり前と言えば当たり前のことですが、要するに起業家は、自らのビジネスにおけるいわゆる調子の「波」を、ほぼ間違いなく経験することになるのです。
サラリーマンと違って、ビジネスの調子が仕事量や収入に直結する起業家にとって、それは「不安定」になるということを意味します。
当然ながら、特に起業当初は、その傾向が顕著であると言えるでしょう。
そして、件の起業家曰く、その「不安定」の根底にあるのは、あらゆることが「不確実」になるということであるというのです。
指示通りに動いてくれなかったり、ミスをしても全く悪びれることなく平気な顔をしていたりする、自由奔放な従業員。
納品した商品やサービスに対して、あれこれと難癖をつけてなかなか代金を支払おうとしなかったり、理不尽なことを言い連ね、不当な値引きを要求してきたりする、横暴な顧客。
打合せの時間になっても現れなかったり、指定の日時に依頼した物が届かなかったりと、平気で約束を反故にする、いい加減な取引業者。
そして何より辛いのが、誰に聞いてみても「確実に売れる!儲かる!」と絶賛された商品やサービスが、いざ世間に公開しても全く売れないという、厳しい市場(マーケット)の現実を突きつけられた時なんだそうです。
従業員から、顧客から、取引業者から、そしてビジネスの舞台となる市場(マーケット)から…そんな仕打ちを繰り返し受けているうち、100%確実というものはこの世に存在しないことを思い知り、あらゆることに対して疑心暗鬼にならざるを得なくなったと言います。
起業してから成長する
疑心暗鬼になってしまうことの是非はともかくとして、それ故、彼は、ちょっとやそっとのことでは動揺も狼狽も全くしない、強い精神力を手に入れたそうです。
元々、起業家を志す人であれば、ある程度の精神的な強さと、いい意味でのふてぶてしさといったものを兼ね備えていたりするものではありますが、実際には起業家になってから鍛えられ、大きく成長することのほうが多いのです。
困難や苦労は、人を最も成長させ、それを克服することで、さらなる自信までをも手にすることが出来ます。
そしてそれと同時に、あらゆる不確実性に対して巧みに立ち回ることの出来るスキルが磨かれていくのです。
不確実性と、それに伴う困難や苦労に対して、いい意味での割り切りを持ち、それらを想定した事前対策を講じておけば、ある意味何が起きても怖くはなくなるはずです。
※参考
→「リスクゼロはあり得ない」
何が起きても「想定の範囲内」に
とにもかくにも、起業家たるもの、あらゆることが「不確実」になるという現実に常にさらされることは、強く肝に銘じておいたほうがいいでしょう。
件の彼のように疑心暗鬼になれとか、すべてを疑ってかかれなどという訳では決してありませんが、それでもあらゆる不確実性というリスクに対応するという意味では、何が起きても「想定の範囲内」(by ホリエモンこと堀江貴文さん)に留められるよう、実務的にも精神的にもしっかりと備えておくことに越したことはありません。
それを心掛けていれば、自らが意識せずとも、自然に一人の人間として強くなっていくことは間違いないのです。
起業家として世界的に名を馳せているような成功者の中で、人間として弱々しい、全く頼りにならなさそうな人が、思い当たるでしょうか?
フォードのヘンリー・フォードさん、ディズニーのウォルト・ディズニーさん、マイクロソフトのビル・ゲイツさん、アップルのスティーブ・ジョブズさん、テスラモーターズのイーロン・マスクさん、アマゾンのジェフ・ベゾスさん、オラクルのラリー・エリソンさん、ホンダの本田宗一郎さん、松下電器(パナソニック)の松下幸之助さん、京セラの稲盛和夫さん、ソフトバンクの孫正義さん、楽天の三木谷浩史さん、ファーストリテイリングの柳井正さん…。
新旧併せて、全くとりとめもなく順不同で挙げてみましたが(これ以上は枚挙に暇がありませんので…)、どなたを見ても、人として一本の筋が通った、強い人間であるという印象のはずです。
つまりはある意味で、起業家として成長するということは、人間として強くなるということと、イコールであるのです。