個人での起業に限らず、会社組織における新規事業の進め方でも同様なのですが、いわゆる失敗例として、「最終形(完成形)を目指して、いきなり100%の心血を注いでしまった」というケースが割と多いものです。
要するに、最初からアクセル全開で、最終目的に向かって、なりふり構わず猪突猛進するといった具合です。
「100%の心血を注ぐ」というのは、一聞すれば聞こえが良く、決して悪くないようにも思えますが、目的と方向性を間違えると、単なる勇み足にもなりかねません。
結果、商品やサービスは完成したものの、蓋を開けてみたら全く売れなかった…ということがままあるのです。
失敗するとダメージが大きい
この場合、商品やサービスの開発過程で、大きな投資をしてしまっているケースもあります。
それ故、失敗した場合のダメージも非常に大きいものです。
残ったのは負債と、売れない商品の在庫だけ。
その事業からは撤退を余儀なくされるといった状況に至ることだってあるでしょう。
個人での起業であれば、それが致命傷となり、最悪、起業自体を諦めなくてはならなくなるかもしれません。
「永遠にベータ版」
これを防ぐためには、昨今のWebサービスやWebサイト・コンテンツなど(以下、すべて含めて「Webサービス」で統一します)における構築や開発の手法が参考になります。
雨後の筍のように日々増殖しているインターネット上のWebサービスですが、それ故、ライバルも無数に存在します。
画期的なWebサービスを開発し、世に送り出しても、すぐに同様のサービスが次々と誕生してくるのです。
それら次々と誕生するライバルを凌駕するためには、常に手を加えて、改善を続けなくてはなりません。
それ故、Webサービスには完成形など存在しないと言われています。
「永遠にベータ版」などという言葉まで存在するくらいです。
※「ベータ版」とは本来、正式版を公開する前に、お試しでユーザーに使用してもらうためのサンプル、いわゆる試用版のことです。 「永遠にベータ版」とはすなわち、いつまで経っても試用版のままであると謳うことで、決して完成( = 正式版)には至らないといった意味合いを強調しているのです。
もちろん、ただ闇雲に手を加える訳ではなく、ライバルの動向や、実際のユーザーの利用状況・改善要望などを調査・分析して、それをサービスに反映させるのです。
要するに、市場の反応を窺いながら、より良いサービスへと昇華させ続けるのです。
言い方を変えれば、インターネットのメリットを最大限に活用して、世界中の人々をテスターもしくはモニターにしてしまう訳です。
そのためにも、一刻も早く(語弊はありますが、たとえまだ出来が悪かったり、不具合があったり、中途半端だったりしても)、とにかく世の中に公開してしまうことが最も大事であると言われているのです。
改善のサイクルを構築する
さて、新しい事業を成功に導くためにも、この考え方は有効ではないでしょうか。
すべての業界や業種で、100%適用出来る手法ではないかもしれませんが、そのエッセンスをかいつまんで導入するだけでも、失敗するリスクを大きく下げることが可能かと思います。
Webサービスのように、中途半端なまま世の中に公開(販売開始)してしまうという訳にはいかないことも多いでしょう。
ただ、コンセプトの段階で顧客に意見を求めるとか、試作品(プロトタイプ)を使ってもらって反応を見るとか、色々と応用は利きそうです。
そしてそのフィードバックをまた、新たな商品やサービスの開発に活かす訳です。
そのサイクルが構築され、それを回す度に改善が進むといった流れが出来上がれば、成功する確率は飛躍的に向上することでしょう。
プロダクトアウトだって考え方は同じ
以前、「新たな価値や斬新なイノベーションは、プロダクトアウトから生まれる」といった話をしたことがありますが、「プロダクトアウト」と、冒頭で言及した「最終形(完成形)を目指して、いきなり100%の心血を注ぐ」ことは、全く異なるものです。
後者はある意味、提供側のエゴやゴリ押しと言われても仕方がありません。
※参考 →「マーケットインとプロダクトアウト」
プロダクトアウトは、ともすれば当事者である顧客やクライアントですら認識していない問題や要望について、先んじてプロダクトを示すことによって気付きを与えるものであるというのが本来の解釈ですから、上述した手法や考え方とも合致するのです。
異例の事態が起きるからビジネスは面白い
ただ、世の中には、開発者の一途な想いのみで作られ、ともすれば周囲の反対を押し切ってまで世の中に送り出したものが、何故か大方の予想に反して売れまくってしまうといったことが事実としてあります。
あるいはまた、ある時期には全く市場に受け入れられなかったものが、時代の変遷によって、大ヒット作に伸し上がるといった前例も数多くあります。
身も蓋もないかもしれませんが、こうなると、もはや何が正解なのかは誰にも分からないというのが、実際のところなのかもしれません。
そういう場合には、冒頭で言及した「最終形(完成形)を目指して、いきなり100%の心血を注ぐ」ことが成功の要因だったということもあるかもしれませんから、いやはや本当に分かりません。
何だか、ここまで言及してきたことを覆すような矛盾に触れているようですが、しかしながら、そういったケースは、あくまで異例であると考えるべきでしょう。
万に一つの確率であり、決して初めから狙って達成出来るような類いのものではありません。
とはいえ、そういうところがビジネスの奥深さであり、そういうことがあるからこそ、ビジネスは難しく、かつ最高に面白いとも言えるのでしょう。