決死の覚悟を決め、背水の陣で起業に臨む。事業が軌道に乗るまでの生計を立てるために、アルバイトでも何でもやることを厭わない。
一見、ただならぬ覚悟の様子が窺える、素晴らしい決意のように思えます。
起業して、当初から十分な売上が計上出来れば、それに越したことはありません。
ただ、半年から1年程度は、黒字計上とはならないことがほとんどです。
そもそもそういった収支計画を立てたところで、なかなかその通りにいかないのが多くの現実でしょう。
事業が軌道に乗るまで、アルバイトでも何でもして何とか食いつなぐというのは、確かに相応の覚悟が感じられる、理にかなったことであるような気もします。
アルバイトは起業当初のリスクヘッジにはならない
しかしながら、起業成功という長い道のりを見越した観点から冷静に考えると、これではその取っ掛かりでうまくいかずに挫折してしまうような気がしてなりません。
実際には、アルバイトなどで食いつなぐということが、現実的なリスクヘッジにはならないことも多いからです。
ただでさえ忙しい起業家生活、そして本業がまだまだ軌道に乗っていないというその状況の中で、アルバイトなどに精を出す精神的・体力的な余裕が、果たして生み出せるのでしょうか。
たとえ、「体力には自信もあるし、何でもやる覚悟は出来ているから、絶対に大丈夫」などと思っていても、慣れない起業家生活を送っていく中で、徐々にその気概が蝕まれていくのが人間なのです。
あるいは逆に、アルバイトなどをやる余裕があるということは、まだまだ本業で精力を使い果たしていないとみることも出来ます。
つまり、結論を言ってしまえば、アルバイトなどに充てるその時間や体力があったら、それを本業のために使うべきなのです。
そして、それがまさに、正しい起業家の姿なのです。
※参考 →「本丸に集中せよ」
「背水の陣で臨む」ことの意味
そもそも、最初からアルバイトなどで食いつなぐことを想定しているという状況は、「背水の陣で臨む」ということからすら逸脱しているかもしれません。
それ自体が、ある種の「保険」、厳しい言い方をすれば「現実に逃げている」と捉えることも出来るからです。
要するに、「背水の陣で臨む」という言葉が意味する、「あらゆる退路を断つ」という状況であるとは断じて言い難いのです。
※参考 →「背水の陣で臨め」
また、同様の理由で、文字通りの「保険」に頼る、すなわち、雇用保険(失業給付)をもらいながら食いつなぐなどというのはもってのほかです。
そもそも雇用保険(失業給付)は、やむなく会社を退職したり、リストラされたりするなどして職を失った人が、再就職のため、真剣に職を探す努力をしている場合にのみ受け取る権利を有するものです。
つまり、それを当てにする時点で起業家としての心構えや覚悟が全く出来ていないといった意味合い以前に、厳密に言えばそもそも起業準備に動き出した時点で受給資格を失っており、法律上は不正受給となるため、言語道断という訳です。
本当の起業準備と、本当の覚悟とは
もちろん、アルバイトでも何でもしてとにかく食いつなぎながら、それでも自らが選んだ事業を推し進めることを諦めないといった姿勢は、いよいよにっちもさっちもいかなくなってしまった際には、必要となってくることもあるでしょう。
ですが、起業当初から、もっと言えば起業前の準備段階から、アルバイトなどの別の食い扶持を検討している時点で、そもそも起業家本来の覚悟ではないという見方も出来るのです。
起業当初はとにかく本業に集中すべきであって、そのための準備をすることが、本当の「覚悟」なのです。
つまり、本当に必要なのは、アルバイトでも何でもやることを厭わないという心の準備ではなく、例えば十分な資金を準備するといった、本業に集中するための現実的な準備なのです。
それを含めて、本当の「起業準備」なのです。
収支計画を立てつつも、その一方で、無収入という厳しい現実が一定期間続くことを想定するのは、決して間違ったことではありません。
そもそもそれすら想定出来ていない起業家も多く存在する中で、それが出来ているだけ良しとも言えます。
ただ、成功する起業家においては、その覚悟が「軌道に乗るまで、アルバイトでも何でもやる」といった形ではなく、しっかりと余剰資金を準備するなどの明確な形で現れるものなのです。