起業家のジレンマ

個人事業主での起業から時が経過し、事業の安定や規模の拡大などに伴って、いよいよ思い切って会社化に踏み切るといったケースは多いものです。

しかしながら、会社化して従業員が2人・3人…と増えていく過程において、起業家自らの生産性のみに目を向けてみれば、それは悪化してしまう傾向にあります。

出来る人であればあるほど、何をやるにしても1人でやるのが一番効率が良く、最も確実であるというのは、もはや不変の真理とも言えるほど明らかなことだからです。

こうして「天才」と呼ばれるような優れた人ほど、人に頼るということを知らぬまま、自らの力のみで何でもこなすようになってしまうという訳です。

※参考
→「天才ならではの起業失敗

生産性が下がってしまう理由

従業員が増えていけば、起業家(経営者)として、本業である事業に直接関わるタスク以外に、やらなければならないことがどんどん増えていきます。

それ故、これまで1人でやってきた本業に対して、割り当てられる自分自身のリソース(時間や労力)が激減し、その部分に関する生産性が下がってしまうというのは、ある意味仕方のないことでもあるのです。

ただ、生産性が下がってしまうのは、本業以外にやることが増えてしまったからといったことだけが理由ではありません。

他にも、意識して対策すれば避けることの出来る理由によっても、生産性が悪くなるということが往々にしてあるのです。

例えば、1人ではなく2人・3人…と関わる人数が複数存在することによる安心感もあってか、それぞれがそれぞれを頼り過ぎて、ともすれば「誰もやらない」といった事態が発生する状況に陥ってしまうようなことです。

最初から阿吽の呼吸で仕事が進められることなどほぼありませんから、まずはお互いの守備範囲を定めておかなければ、まさに野球やバレーボールなどの球技でいう「お見合い」といった事態が起きてしまいます。

これらすべては、それぞれの役割責任の所在が明確でないからこそ、発生してしまうのです。

何より怖いのは「当事者意識の欠如」

そして何より一番怖いのは、それが高じて、起業家自身の当事者意識といったものが、従業員の増加に伴って急激に欠如してしまうような事態です。

もはや何でもかんでも1人でやらなくてもいい、抱え込まなくてもいいといった安堵が、必要以上にたがを緩ませてしまうのか、明らかに起業家自身の緊張感が希薄になることがあるのです。

猛烈な勢いで突っ走ってきた起業家であればあるほど、この傾向が見られるケースが多いようです。

「燃え尽き症候群」と呼ばれる症状は、自身が期待した結果を得られなかった場合に生ずるものを意味するため、厳密に言えば少し意味が異なりますが、もしかしたら形としてはそれに近いものがあるのかもしれません。

生産性の低下を最小限に食い止める

また、これは不可抗力の側面もあるのかもしれませんが、加わった従業員のスキルやパフォーマンスが十分でない場合には、特に注意が必要です。

そのような時、起業家は一定の無駄を承知の上で、その人の分も自分でやるつもりで進めるか、あるいは後々の責任はすべて被る覚悟で、大胆に任せるか、といった割り切りが必要になってきます。

ともあれ、そんなこんなで、会社化し、従業員が増えていく過程において、起業家自身の生産性が低下してしまうことは、もはや必然、避けて通れないものなのかもしれません。

これはもう、起業家が抱える最大のジレンマと言ってもいいでしょう。

しかしながら、決して諦めず、それを最小限に食い止める努力は、怠るべきではないのです。

全員の意識を一つにする

一方で、従業員が増えたにも拘わらず、相変わらず起業家が1人で何でもやろうとしてタスクを抱え込んでしまうことによる弊害というものも、歴として存在します。

※参考
→「すべてを自分でやろうとしない

どこまで自分でやるか、どこから任せるか、はたまた誰に任せるか、どの程度任せるか…。

その加減は非常に難しいものです。

しかしながら、かくも起業家はこういった悩みを抱え続けるのが宿命なのです。

すなわち、常に孤独で、常に矛盾と戦わなければならない人種であるのです。

※参考
→「起業家は孤独である

ただ、起業家であれば誰しもが皆、多かれ少なかれ同じような状況であることは、知っておくべきです。

決して、「この悩みを抱えているのは自分1人だけである」などといった、孤独を助長するような思考には陥らないことです。

この問題はもはや、昔からずっと続いている、そして今後も恐らく解決されることのない、すべての起業家が抱えてしかるべき永劫不変のものなのです。

一つ間違いなく言えることは、そんな状況においては、従業員皆で共に邁進するという「気持ちの共有」が最も大事であるということです。

同じ船に乗った仲間であるという意識を、全員が持つということです。

それさえあれば、多少の嵐や荒波が訪れようが、決して恐れることなどないでしょう。

※参考
→「人材の採用は極めて慎重に
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