「伝言ゲーム」という言葉があります。
人づてに情報が伝達されることで、いかに内容が変化を遂げてしまうかという、困った事態を表す比喩ですが、文字通りのゲームもありますよね。
列毎のグループで、先頭からメッセージを伝えていき、最後の人にどれだけ正確に伝わったかを競うというものですが、小学生の時に、よく修学旅行のバスの中などで楽しんだものです。
それはともかく、比喩としての「伝言ゲーム」がいかに恐ろしいものであるか、言い換えれば、人から聞いた話を正確に伝達することがいかに難しいことであるかという問題は、今も昔も変わらず存在するようです。
人間は勝手にバイアスをかけるもの
そもそも、そこに人間が介在する限り、それは避けて通れない問題なのかもしれません。
人は誰でもそれぞれの主観というものを持っていて、本人が意図しているかしていないかに拘わらず、それ(主観)によってどうしても脚色したり、意訳してしまったりするからです。
それ故、インプットされた情報を、そのままアウトプットすることが、実は大変難しいのです。
要するに、人間というフィルターを通す度に、そこには勝手に様々なバイアスがかかってくるのです。
基本的に、主観や自我が強すぎるが故、ひねくれた捉え方しか出来ないような人にそういった傾向が強いのはもちろんですが、実は、頭のいい人、気が利く人にも、その傾向がよく見られたりします。
そういう人ほど、要点をまとめて分かりやすく伝えるとか、無駄なことは言わないようにしようとか、あれやこれやと余計なことを考えてしまうことが多いからです。
ありがちな3つの事例
さて、人間によるフィルター、そこでかかってくるバイアスが非常に怖いということで、企業でありがちな事例を、3つほどご紹介します。
(共通前提)
Aくんは、毎週の定例会議で居眠りしていたところを、B課長に注意された。Cくんは、Aくんの先輩で、同じ会議に出席している。そして、会議終了後。
事例1
A 「課長、居眠りなんかして申し訳ありませんでした。」
B 「まぁ、今日は徹夜明けだったから、無理もないねぇ…。一睡もしてないんでしょう?」
A 「はい。すみませんでした。」
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(後日)
C 「Aくん、今日、また会議中に居眠りしてたでしょう?」
A 「はい。でも、B課長から、徹夜明けの日は居眠りしてもいいって言われているもので…。」
事例2
A 「課長、居眠りなんかして申し訳ありませんでした。」
B 「みんな真面目にやってる中で、居眠りなんかするなら、出ない方がいいくらいだよ。気をつけて。」
A 「はい。すみませんでした。」
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(後日)
C 「Aくん、今日はどうして会議に出なかったの?」
A 「B課長から、出るなって言われたもので…。」
事例3
A 「課長、居眠りなんかして申し訳ありませんでした。」
B 「おれに謝ったって仕方ないだろう。みんな真面目に参加してるのにさぁ…。」
A 「はい。とにかくすみませんでした。」
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(後日)
C 「Aくん、なんか謝罪のメールをもらったけど?」
A 「はい。B課長から、みんなに謝れって言われたんです。」
人づてに聞くリスクを認識する
いかがでしょうか。
3つの事例のAくんのような人に、当たらずも遠からずといった方が、あなたの周りにも1人や2人はいらっしゃるのではないでしょうか。
やっかいなのは、どのAくんも、すべて自分が間違っているとは思っておらず、それぞれ本当にB課長にそう言われたものと思い込んでいるということ。だから、「そういうことを言ったんじゃない」とストレートに指摘したところで、多くの場合すぐには腹落ちしてくれないんですよね。
繰り返しますが、とかく人間というものは、インプットされた情報に対し、それぞれの主観でバイアスをかけ、違う形でアウトプットしてしまうもの。
そのことをよく知っているカウンセラーやコンサルタントなどは、顧客から相談を受けた際に、「本当にその人はそうおっしゃいましたか?」「その時の言葉を出来る限り、一字一句そのまま教えてください」といったように、なるべくフィルターを通さないありのままの真実を聞き出すようにすることがあるのです。
ビジネスの場において、特に、顧客の要望などは、曖昧で分かりづらいことも多く、さらにそれを人づてに聞いたとなれば、かなりのリスクが潜んでいるものと認識するべきです。
営業マンが顧客からヒアリングしたという内容を基に、技術者が設計書を作成したところ、顧客が本当に望んでいたものとあまりに違っていて、すべてを最初からやり直したなんていう話は、よくあることなのです。
以上、起業家(トップ)として、顧客や取引先、従業員など、様々なステークホルダーとの深い関わりがある中で、改めて認識しておいたほうがいいと思った内容ですので、あえて記事にしてみた次第です。