すべてを自分でやろうとしない

起業すれば当然のことながら、すべての責任が自らに圧し掛かってきます。

躓いている多くの起業家に共通して見られる傾向として、この「すべての責任は自分にある」という事実と、「すべてを自分でやらなければならない」という強迫観念にも似た思考とを、混同しているということがあります。

もちろん、起業家もしくは経営者として、少なくとも最低限の概要は押さえておかなければならない事柄というものが、非常に多く存在するのは事実です。

だからこそ、とりわけ起業当初は、時間がいくらあっても足りないくらい極めて忙しいものなのです。

しかしながら、それらすべてを一人でこなさなければならないかというと、決してそうではありません。

特に起業前後の事務手続きや、社会制度的な立ち回りにおいて、専門書を何冊も買ってゼロから勉強するなど、自らが付け焼刃ですべて対応しようとするのは、時間もお金も非常にもったいないことです。

下手に中途半端な知識で対応することで、すんなりいかないことだって出てきてしまうでしょう。

恐らくそういったことのほとんどは、専門家なら一瞬で済むようなことです。

つまり、税金のことは税理士に任せたり、法律のことは弁護士に任せたりするなど、自分の専門外事項や不得意分野は、専門家に任せればいいのです。

これは決して、起業家としての自らの責任を放棄することではありません。

「自分の責任の範疇において、専門家に任せる」のです。

起業家であれば、そして特に起業前後であれば、もっと他に時間を割かなければならないことがたくさんあるはずです。

そちらに傾注したほうが、余程起業がスムーズに進捗することは、今さら言うまでもありません。

餅は餅屋

そしてこのことは、本道であるビジネスにおいても全く同じです。

ビジネス上の必要性や、その領域の将来性から、不得意分野においてゼロから単独での参画に挑戦するケースも時折見られますが、そのような状況で短期間のうちに成果が出せることは極めて稀です。

多くは、そこに費やした時間やお金などすべてのコストに比して、見合った成果がなかなか見出せないでいるというのが現実なのです。

極論を言えば、門外漢があえて新規事業に鋭意参画する場合、既にその道の専門家である人や組織と組むのが一番手っ取り早いはずです。

ところが、下手にプライドが高いせいか、これに一定の抵抗を感じる起業家が多いのです。

すべてのケースにおいて専門家に頼ることが絶対の正解であるとは申しませんが、少なくとも起業家(経営者)として、その可能性を見極め、バランスを鑑みた上で、都度最善の判断を下すべきです。

そして、そういった専門家との連携や提携が高じると、最終的に企業の合併や買収(M&A)に至る訳ですが、M&Aを繰り返している多くの敏腕経営者が口にする「餅は餅屋」というのも、要するに同じ理屈なのです。

日本では、孫正義さん率いるソフトバンクグループが怒涛の勢いでM&Aを繰り返してきたことで有名ですが、海外ではもっと激しいM&Aがもはや日常茶飯事であり、そのような例は枚挙に暇がありません。近年では、人工知能(AI、artificial intelligence)に大いなる可能性を見込んだGoogle社が、その分野において最新鋭の技術を持つロボット関連企業を、次々と買収したことが記憶に新しいところですね。そのせいもあってか、AIの進化はここ数年で爆発的に加速しました。

いずれの場合も、これまでとは異分野と思われる領域で、早々に素晴らしい成果をあげています。

責任を持つことと自ら遂行することを混同しない

ともあれ、起業家としてすべてを自分でやろうとするその心意気と努力は素晴らしいものですが、何でもかんでも自分でやろうとすることが必ずしも正解ではないということは強く認識しておくべきでしょう。

成功に向けて驀進するためには、冒頭でも触れた通り、「すべての責任は自分にある」ということと、「すべてを自分でやらなければならない」ということを、決して混同してはならないのです。

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