起業して数年経ち、苦労はしているものの、今のところは乗り切っている。
しかしながら、大きな成功には程遠いし、実際には何とか食い繋いでいるだけという状態に近い。
いつダメになるか分からないという不安は起業直後と全く変わっていないし、この先も同じような状況が長く続くとしたら、心身共にどこまで耐えられるかが非常に心配だ…。
…詳細な状況は人によって異なれど、概ねこのような状況に置かれている起業家の方というのは、少なくないものです。
事業をたたむほど壊滅的な事態には陥っていないものの、取り立てて順調でもないという、何とももどかしい状況です。
この先、大きな成功に転じる光が少しでも見えていればまだ希望はあるものの、現実としてはそれも見えておらず、いわばある種の膠着状態という訳です。
すべてをうまくやろうとしない
このような起業家に共通して見られる特徴として、「すべてをうまくやろうとしている」といったことが挙げられます。
要するに、優先度を下げたり、後回しにしたり、ともすれば思い切って捨てたりしなければならないような事案であっても、決してそれをせず、すべてを満遍なくこなそうとしてしまっているのです。
学校の試験に例えるならば、すべての科目において100点を取ろうとしているような状況です。
もちろん、それは決して悪いことではありません。
しかしながら、だからこそやっかいであるとも言えるのです。
決して悪いことではない、起業家として間違ったことをしているとも思えない…。
そんな気持ちが、そのような状況から脱却することをさらに難しくしているのです。
全科目満点は現実的ではない
そのような状況は、言うなれば、「広く浅く」といった状況です。
全科目で100点を取ろうと頑張ってはいるけれど、当然、現実としては全科目満点とはいかず、概ね60点~70点辺りで収まっているような感覚です。
要するに、全体としては何とか廻っているけど、取り立てて特筆すべき部分がない、あるいは苦労や疲弊の度合いの割には、なかなか大きな結果が得られない、といった状態であることが多いのです。
まさに、それ以上にもそれ以下にもならず、その状況が悶々と長く続くという、前述した通り、ある種の膠着状態なのです。
長期的な経営視点で判断する
例えば、起業して、自らについてくれる顧客がどんどん増えていくというのは、本当に嬉しく、かつ気持ちがいいものです。
特に起業初期におけるその状態は、何物にも代えがたい充実感があり、まさに起業家冥利に尽きると言えます。
ですが、いつまでも浮かれることなく、少なくとも一定期間の経過後、すべての顧客を100%満足させることなど現実的には到底不可能であるということを、起業家として明確に悟るべきです。
「到底不可能」などと言い切ってしまうことの是非はともかく、時間にも、人的リソースにも、資金にも限りがある中で、百人百様の顧客をすべて100%満足させるのは、およそ現実的ではないと考えるべきなのです。
中には、たとえ今は良くとも、将来的には自らの事業にとって決して優良顧客とは言えない、例えば、我侭や理不尽な要求ばかりで、費用対効果が決して望めない、マイナス要素ばかりが懸念されるような難しい顧客もいるでしょう。
経営的な観点からすれば、そういった顧客と、他の優良顧客とでは、明確にメリハリをつけた対応を行ってしかるべきなのです。
要するに、起業家として、断固とした判断をするべきなのです。
すなわち、毅然と割り切って、大胆に取捨選択を行うということです。
そこでは、短期的な視点ではなく、長期的な経営視点が大いに求められることになるでしょう。
取捨選択の上、集中的なリソース投下を
特に、脱サラして起業した場合などは、サラリーマン時代とは全く異なる観点から、判断を下さなければならない場合があり、そこに大いに戸惑っているといった方も多いようです。
サラリーマンとして組織に守られた状態で、あるいは組織としての判断を自ら大胆に下すような立場にない状況で、バッサバッサと顧客を取捨選択することなど、出来る人はそう多くはないでしょう。
あるいは、そこまでの必要はないとも言えるのかもしれません。
ですが、起業家は明確に状況が違います。
そこまでやる必要が、間違いなくあるのです。
そういった取捨選択や難しい決断から逃げてばかりでは、長期的には間違いなく、自らの事業を揺るがしかねない事態に陥ってしまうからです。
※参考 →「サラリーマンと起業家の違い」
大事なことは、決して、すべてにおいて100点を取ろうとはしないことです。
長期的な観点から大胆に取捨選択を行い、選定された事案に対してだけ、集中的にリソースを投下するべきです。
そしてそれは、事業領域、顧客、あるいは自ら抱える従業員、時間、資金など…外部要素・内部要素を問わず、起業家として関わるすべてについて、同様に言えることなのです。
それが出来なければ、起業家としての大きな成功などは、望むべくもないでしょう。