本末転倒に注意せよ

起業家は皆、何がしかの想いがあって、起業に踏み切っているはずです。ただ中には、起業して猛烈に突っ走るが故に、あるいは他の様々な理由で、いわゆる「本末転倒」の状態に陥ってしまっている人も少なくありません。

それが束の間の事態であればいいのですが、長い間そこから抜け出せずにもがいている人、あるいはもはやそれが当たり前になって麻痺してしまっている人など、一度立ち止まってゆっくり顧みたほうがいいのではないかというケースが、決して珍しくないのです。

懸念されるのはこんなケース

本末転倒というのは分かりやすく表現したまでであって、実際にはその文字通りの意味とは必ずしも合致しないケースも含みますが、ともあれ総じてどういう状態なのかといいますと、例えば…。

  • 家族との時間を大事にするために、すべてが自分マターとなる起業に思い切って踏み切ったのは良かったが、超多忙なサラリーマン時代の反動故、家族との時間を大事にし過ぎて、働く時間の減少はおろか、そのモチベーションまでもが徐々に低下。そもそも事業として成り立たないところまで行き着いてしまった。
  • あるいは、同じように家族との時間を確保するために脱サラして起業を決断したにも拘わらず、とにかく事業として成立させるために猛烈に働いたが故、家族との時間が全く取れず、何年経ってもその状況が変わらない。最近は奥さんから離婚までチラつかされ、何のために起業したのかを見失っていることに気付いて、しばしば途方に暮れている。

相反しているとも思われるこの2つの事例では、(離婚までチラつかされるかどうかは別にしても)後者に類するケースのほうが圧倒的に多く見受けられますが、時折前者のケースも目にします。

前者はすなわち、起業前後の熱い魂、漲る意欲を、完全に失ってしまっている状態です。もはや「起業家」とは呼べない、文字通りの本末転倒です。そして、こうなってしまう方はそもそも、起業家には向いていないのです。事業における実際の収支はともかく、「働くモチベーションが低下」していることが大問題なのです。

後者はもしかしたら、「起業家」としては間違っていないとも捉えられますが、とはいえ本人が途方に暮れるほど疑問を感じているのであれば、明らかに一度立ち止まって考えてみるべきでしょう。

他にも、最近私が聞いたのはこんな話。

  • とにかく贅沢がしたくて、平たく言えば金持ちになりたくて起業し、それなりに成功はした。念願の高級外車も手に入れたが、全く乗る時間が取れず、ガレージの肥やしと化している。さらに、先日の出張では、わざわざ超高級ホテルを予約したものの、忙しすぎてホテルに居られたのは2時間の睡眠時間だけ。これなら、安いビジネスホテルでも全く変わりがなかった…。

もちろん、起業後の長い人生、こんなこともあるでしょう。ただ、この方の場合、この状況が長年続きすぎて、精神的にも相当疲弊してしまっているとのことでした。高級外車にしても、初めはあまり乗れずとも、所有しているだけで満足出来たことで何とかモチベーションを保っていたのですが、今ではもはやそうもいかなくなってしまったようです。

危険信号、点灯中

さて、人の幸せという形は様々あれど、上述したケースでは、どれも本末転倒、もしくはそれに類する状態に陥ってしまっており、どう考えても幸せであるとは思えません。

少なくとも、どこかでボタンを掛け違えてしまったせいか、起業後のビジネス生活と自らの想いとに不協和音が生じており、何がしかの梃入れが必要な状況であることに間違いはありません。

いわゆる危険信号が、煌々と点灯している状態です。

そして、これが長く続けば、さらに状況は悪化するであろう一方で、そもそもどこまで気持ちや体が持つのか分かりません。

要するに、早々に気持ちが続かなくなったり、体を壊したりして潰れてしまっても、全く不思議ではありません。

放置することが一番のリスク

起業して成功するまでの道のりにおいて、順風満帆で一直線にその道を突き進めることなど、まずないと考えるべきです。疑問を感じたら、早々に立ち止まって現在の状況を顧みつつ、必要であれば、たとえその道程を多少戻ることになろうとも、思い切って策を打ってみることです。

その策とは、ちょっとした方針転換だったり、あるいは事業自体の大きな変更を余儀なくされるものだったりと、大小様々であるでしょうが、とにかく漫然とその状況に流され続けるのではなく、動いてみることが大事なのです。

危険信号の点灯状態においては、何もしないでそれを放置することが、何より一番のリスクだからです。

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