先日もお話をした通り、ビジネスというものは拡大するだけがすべてではありません。
※参考
→「ビジネスは拡大することがすべてではない」
上のページでも触れていますが、起業家として、何に価値を見出し、どこに重きを置くかで、そもそもの成功の定義は人それぞれ違ってきます。
つまり、会社を設立して組織や事業の規模をどんどん大きくすることだけが、起業家としての成功であるとは決して言えないということなのです。
そのため、起業するにあたっては、個人事業主とするか、あるいは会社を設立して社長となるか、どちらを選択するかという問題で悩む方が決して少なくありません。
※フリーランスや自由業、あるいは商店経営といった自営業など、個人が主体となって仕事を行う形態は種々ありますが、その細かな違いに言及するのは論点がぼやけて分かりづらくなってしまいますので、ここでは、「個人事業」をそれらすべてを含む概念としておきます。
また、社長という役職名に関しても、会社形態によって「代表社員」などの呼び方がありますが、すべてをまとめて「社長」と呼ぶことにします。
そしてこの問題は、起業という概念が一昔前よりも格段に一般化してきた昨今、そこかしこで取り上げられ、議論されるようになりました。
とはいえ、問題の本質は、一概にどちらが正解であるかを決めつけられるような性質のものではなく、結局はどの議論を見ても、最終的な結論として似通った内容に落ち着いてしまうようです。
つまりは、様々な観点と個々の状況、そして何より、起業家自身の想いや価値観から、総合的に判断するものであるということなのです。
個人事業主という選択
日本では、全企業のほとんどを占めると言われている中小企業のうち、さらに6割前後を個人事業者が占めていると言われており、それが我が国の経済が回っていく上での重要な存在となっていることは間違いありません。
ただ、新会社法の施行で最低資本金制度が撤廃されたことなどにより、会社設立のハードルが下がってきていることも相俟って、近年、個人事業者の数は減少傾向にあるようです。
具体的な数値については、毎日のように企業が生まれたり倒産したりと激しく状況が移り変わっていく中で、各種様々な統計値が存在し、正確なものを把握するというのは非常に難しい作業ですが、大雑把な数値でここ数年の状況を鑑みてみると、中小企業基本法に基づいた中小企業(個人事業者を含みます)が、約410万~420万社。
そのうち、個人事業者は、約240万~250万者というのが、おおよその現実であるようです。
いずれにせよ、これらを基に考えれば、起業する人のうち約6割(10人に6人)が「社長」ではなく「個人事業主」を選択する…と考えていれば、大きな間違いはないのではないでしょうか(ただ、これに事業撤退や倒産などは加味されておりませんので、上述した通り、やはり正確な数値を把握するのは非常に困難であると言えるでしょう)。
会社設立に比べて手続きに要する時間や費用が圧倒的にかからずに済むこと、定款などに囚われることもなく、意思決定においても事業主がすべてを判断することが出来、比較的自由度が高いことなどが、個人事業主を選択する人が多い理由であると思われます。
会社設立という選択
一方で、会社を設立するということは、個人事業よりも圧倒的にスケールが大きく、何かと自分(個人)以外の大きな責任を担うといったイメージが拭えないため、特に初めての起業である場合は、そこに二の足を踏んでしまう人も多いものです。
たいそうに会社組織を構えて、果たして続けていけるのだろうか…といった極めて自然で基本的な、しかしながらとても重要な不安が、頭をもたげてくるという訳です。
ただ、社会的な信用や信頼といった面で、個人事業者よりも会社組織のほうが大きく勝っていることは間違いがありません。
そのことは、取引先との契約や、人材の雇用などのシチュエーションにおいて、大いに有利に働くはずです。
そして何より、個人事業主よりも圧倒的に「一国一城の主(あるじ)」である感覚を持つことが可能です。
組織のトップである「社長」という存在は、本当に特別なものなのです。
これを、くだらない自己満足と思うことなかれ。
ビジネスという厳しい世界で、激しい荒波に耐えながら幾多の困難を乗り越えていくためには、そういった感覚は非常に大事であり、自らを鼓舞し、モチベートするためにも、決してバカには出来ない価値あるものなのです。
果たしてその価値観は、起業家ならではのものとも言えるでしょう。
税金という観点から考える
ところで、個人事業主で行くか、会社組織にするかを判断する指標に関して、税金という観点から論じられることも多いものです。
率直な疑問として、「利益がいくら以上になったら会社組織にしたほうが有利になるのか?」といったことをお考えになる方も多いのですが、これは一概に明確な返答が出来るものではありません。
会社組織にするか否かの判断指標は、利益やそれに伴う税金といったファクターに限らないという理由もありますが、何より、個々の事情によって状況が変わってくるからです。
確かに、利益の規模がある程度大きくなってくると、個人事業主として所得税を支払うより、会社組織として法人税を支払うほうが安く済むといった傾向はあります。
会社が支払う法人税が基本的にはほぼ一律であるのに対し、個人事業主が支払う所得税は、所得( = 利益)が増えれば増えるほど、その税率が高くなっていくからです。
700万円程度の利益がその閾値であるという目安も、あるにはあります。
しかしながら、これについて正確な返答を求めるのであれば、専門家による個々の状況に応じた様々なシミュレーションを行った上で、最善な形を判断するしかないのです(「700万円程度の利益」という目安も、実は諸説様々です。どれが正しくてどれが間違っているといったことではなく、何を所得と見るかとか、地方税など他の税金との絡みをどう考えるかなどといった細かな条件で、試算が変わってくるのです)。
とはいえ、まずは個人事業主として起業し、ある程度売上や利益を拡大したところで会社組織に移行(いわゆる「法人成り」)すればいいと考えるのは、決して間違ったことではありません。
ただ、それなりの手間がかかるのを覚悟しておくこと、そして、そのタイミングについては、自らの事業の状況や今後の展望などを含め、大局的見地から判断する必要があるということは、あらかじめ念頭に置いておいたほうがいいでしょう。