素人目線で考える

発信者が発したい、あるいは発すべきと考えている内容と、受信者が受け取りたい、あるいは受け取るべきと考えている内容というのは、往々にして異なるものです。

要するに、こちらが伝えたい(伝えるべきと思っている)内容と、ユーザーや顧客が知りたい(知るべきと思っている)内容というものは、ともすれば合わないことが多いのです。

ひいては、起業家が売りたい商品やサービスと、顧客やユーザー( = 市場)が欲しているものが、完全に合致するかというと、そうでないケースが多いということです。

概ね、双方は食い違っているものであると言い切ってしまっても、過言ではないかもしれません。

これを突き詰めていけば、マーケットインとプロダクトアウトの考え方にも通じるところがあるのですが、そこまで話を大袈裟にせずとも、提供側と受領側には、ちょっとした見え方や考え方の違いが存在するということです。

※参考
→「マーケットインとプロダクトアウト

プロフェッショナル目線のみでは響かない

ともあれ、特に起業家や経営者として軌道に乗り始めた際に、改めて認識するべきポイントが、ここにあります。

うまく行き始めると、自らが顧客や市場を先導(あるいは扇動)しているような、奇妙な感覚に囚われることがあるからです。

言うなればそれが、独りよがりの事業運営の始まりです。

市場が欲するものと、自らが考えるものとの食い違いに気付かないまま、エゴで固められたゴリ押し商品やサービスを、提供し続けてしまうのです。

そうなってしまうと、せっかくついた顧客やユーザーが、徐々に離れていってしまうのはもはや明白なことです。

では、そもそもなぜ、提供側と受領側の食い違いが往々にして発生するのかと言えば、それはもう、そもそもの視点が違うという一点に尽きます。

情報の発信者、あるいはサービスの生産者など、提供する側は、その程度の違いこそあれど、多くの場合、その道のプロフェッショナルです。

一方で、顧客やユーザーなど、それらを受け取る側は、当然のことながらその道に関して言えばいち素人(※)であることが圧倒的に多いはずです。

※「素人」というと、どうしても上から目線の、ある意味で嘲るような意味合いに捉えられがちですが、単に、「そのことを職業や専門としていない人」という意味で用いています。周りにもヒアリングしながら、あらゆる他の言葉も探ってみたのですが、この言葉が一番分かりやすいという反応だったのです。

プロフェッショナルが、プロフェッショナル目線のみで物事を語ったり、それに従った商品やサービスを提供したりしたところで、同業の他者(すなわち同じくプロフェッショナル)にはウケることがあるかもしれません。

しかしながら、市場で圧倒的な優位を占める一般顧客やユーザーには、全く響かないことが多いのです。

要するに、提供する側の務めとして、目線を、素人のそれに合わせないといけないということです。

極めて基本的なことのようですが、特に事業が流れに乗って、うまく転がり始めた起業家や経営者においては、ややもすれば忘れがちなことなのです。

「初心忘るべからず(※)あるいは「勝って兜の緒を締めよ」ということです。

※全くの余談ですが、「初心忘れるべからず」は本来は誤りだそうです。

ただの自己満足で終わらせない

一例として、Webサイトやブログなどを運営していると、これは非常に顕著なこととして、痛感することが出来ます。

今日はよく書けた、自画自賛ながら素晴らしい文章が出来上がった、読んだ人も大いに満足してくれるはずだ…と、満を持して公開した記事コンテンツのアクセスが、全く思うほど伸びない(笑)。

よくあることです。

その理由は多くの場合、ユーザー目線で書けていないから、ユーザーが求めているものがそこにはないから、なのです。

過去にも書いたのですが、私個人的には、自分に酔うこと、すなわち自己陶酔してしまうような人は、結構好きです(笑)。

しかしながら、それが高じて、全てにおいて独りよがりで、ただの自己満足に終わってしまうと、成功への道のりは遠回りで長いものとなってしまいます。

※参考
→「自分に酔いすぎるな

起業家たるもの、多少の自己陶酔はOK(笑)、されど、くれぐれもただの自己満足のみに陥らないように…自戒を込めて…。

起業家の主たる業務は「コーディネート」

さて、ここまで述べてきたことは、すなわち、「何でもかんでも顧客やユーザーに迎合して、調子を合わせるべきだ」といった意味では全くありません。

我々はプロフェッショナルとして、伝えたいことや提供したいこと、そしてそこから生まれる商品やサービスなどを、顧客やユーザーが知りたいこと、望んでいること、本当に欲していることなどと、うまく摺り合わせ、調整し、コーディネートすることが大事であるということです。

そしてそれが、プロフェッショナルとしての責任であるということです。

特に起業家であれば、まさにその責任を果たすこと、すなわち顧客やユーザーとの「コーディネート」が、日々の主たる業務であると言っても、決して過言ではないのです。

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